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メトロウェザー株式会社「柏原精度検証センター」
屋外タワーシェアリング 2025年3月
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- 所在地
大阪府 柏原市
- 延床面積
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- 構造
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JTOWER保有の既存鉄塔を利用し、より効率的に世界最大規模の精度検証センター開設を実現できた
高精度に風を可視化するドップラー・ライダーの研究開発を手掛ける京都大学発のスタートアップ企業、メトロウェザー株式会社。今回、同社が開発するドップラー・ライダーの量産化に向け、JTOWERの既存鉄塔を活用いただき、世界最大規模のドップラー・ライダー精度検証センターとなる「柏原精度検証センター」を開設しました。
製品の核となる技術開発部門を担うアルタン チャージャン様と、藤井 浩樹様にJTOWERの鉄塔を活用した背景や今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。
お話をうかがった方
- 技術開発本部
VPoE 兼 技術開発本部長
アルタン チャージャン 様
- 技術開発本部
製品開発部 資材・品質保証課 課長
藤井 浩樹 様
既存製品と同等の性能を維持しつつ、小型かつ低価格での生産を実現したメトロウェザーのドップラー・ライダー
―メトロウェザーはどのような背景で設立されたのでしょうか
メトロウェザーは、2015年5月にスタートアップとして創業し、今年で10周年を迎えます。私たちのビジョンは「風を制すること」であり、独自開発のドップラー・ライダーによる風況観測をメインとしたサービスの提供を通じて、空のインフラを構築することを目指しています。
また、ドップラー・ライダーとは、大気中の微細な塵に、人体に無害な赤外線レーザーを照射し、その反射波光を受信することで、最大半径15kmの風況を三次元で観測することができる装置です。
メトロウェザーは、京都大学発のスタートアップ企業です。創業者の古本(*古本淳一氏:メトロウェザー株式会社 代表取締役社長)が、風速レーダーの技術を研究していた中で、レーダーと光の技術を使い、より小型で、様々な場所で汎用性の高いライダーを作ることができるのではないかと考え、世の中にないものを作っていきたいという想いのもと2015年に立ち上げました。
そして、我々が開発した、ドップラー・ライダーとは、京都大学で培ったリモートセンシング技術と独自の信号解析技術により、既存のドップラー・ライダーと同等の性能を維持しつつ、小型かつ低価格での生産を実現した製品です。
―ドップラー・ライダーの開発を進めていくにあたり、JTOWERにご相談をいただきましたが、どのような課題をお持ちだったのでしょうか。
メトロウェザーはアメリカ航空宇宙局(NASA)や防衛省などの研究開発プロジェクトへ参加し、国内外様々な企業・研究機関との共同開発を進めており、2024年3月に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」、PCAフェーズ(実用化研究開発[後期])に採択され、ドップラー・ライダーの量産化を進めるフェーズに入ってくことになりました。量産化に向けては、ドップラー・ライダーが安定的かつ安全に動作をしているか精度検証を行う必要がありました。
ドップラー・ライダーの精度検証実施には、上空の風況を計測するために、地上から鉛直方向で75メートルを超える高さのところに、風速計を取り付ける必要があります。該当する鉄塔を探していましたが、メトロウェザーが本社を置く京都府の近郊では、精度検証で活用できそうな施設がなかなか見つかりませんでした。
そこで、JTOWERへ鉄塔の借用について相談したところ、すぐに大阪府柏原市にある通信鉄塔を紹介いただきました。JTOWERの既存鉄塔を活用することで、新たな設備を建設することなく、より効率的に大規模な精度検証センター開設ができると感じましたし、精度検証を行う環境条件に適していることと、メトロウェザー本社からのアクセスも良く、利便性も良かったため、利用に向け準備を進めていくことになりました。
―JTOWERの鉄塔を活用した精度検証センター開設に向けたプロジェクトが始まりましたが、ゴールの時期はどのように設定したのでしょうか。
このプロジェクトはNEDOのディープテック・スタートアップ支援事業に採択されているため、精度検証は2025年3月までを最終目標として風況観測を実施する必要がありました。
2023年からJTOWERの鉄塔利用の検討を進め、当初はセンター開設まで半年ほどの期間を見込んで動き始めたのですが、実際は、検証するドップラー・ライダーを設置するための鉄塔の足元の土地整備に想定より長期間を要することもわかり、お互いに手探り状態でプロジェクトをスタートしたと記憶しています。
その後、JTOWERの鉄塔を利用することを決定したタイミングで、メトロウェザーに土木工事の経験や知識が豊富なプロジェクトメンバーが加わり、具体的な検討が進み始めました。再度、工程を引き直し、2024年末をセンター開設ターゲットとし、プロジェクトを進めてきました。
JTOWERの皆さんのご協力のおかげで、無事、2024年内に精度検証センターを開設することができ、期日から十分余裕をもって2025年1月に観測を開始することができました。
―柏原精度検証センター開設までの準備を進めていく中で、こだわったことや難しさを感じた点などを教えてください。
まず、柏原精度検証センターは、鉄塔の三か所にIEC61400-12-1規格に準拠したカップ式風速計と、カップ式よりも風向・風速をより細かい精度で観測できる超音波風向・風速計という二種類の風速計を取り付け、鉄塔の直下にはドップラー・ライダーを設置します。それぞれの風況観測を行い、ドップラー・ライダーの観測値との比較検証を行うことでドップラー・ライダーの精度を確認していくことを目的としています。
柏原精度検証センターの開設に向け、敷地内整備をしていく中でこだわった点は三つあります。
一点目は、簡単にドップラー・ライダーを車輛で運び込みしやすいように敷地内の傾斜はなるべく緩い物とし、外接道路との差も小さく抑えました。二点目は、ドップラー・ライダーは地面との水平面を保たなければ、精緻な風況観測を行うことが難しいため、水平面をしっかり確保できるよう敷地の整地を行いました。三点目は、風況観測に必要な電源は余裕をもって確保できるよう電源容量を拡張しました。こうした要望にも柔軟に対応していただけたことで求める環境を実現することができました。
一方で土地の利用については自治体への許可申請が必要で、許可が下りるまで三か月以上を要するため、スピーディーに対応する必要がありました。建築・土木分野で関係する法令を考慮しつつ、新しく定められた基準に則った土木工事の手法を検討しなくてはなりません。ここでもJTOWERの皆さんに検討段階からご協力いただいたことで、期日までに申請を終えることができたと考えております。
密な情報共有連携と、臨機応変な対応で、予定通り、期日までにプロジェクトを完遂できた
―JTOWERのフォロー体制はいかがでしたでしょうか。
精度検証センター開設までタイムリミットがある中で、JTOWERの担当の皆さんとは毎日、密にコミュニケーションをとって連携をさせていただきました。JTOWERからも、課題やプロジェクトの進捗共有などを逐次ご報告いただけたため、メトロウェザー社内でもすぐに情報共有や検討でき、予定通り、期日までにプロジェクトを完遂できたことが嬉しかったですね。
突発的な現地対応が発生しても、JTOWERの方がすぐに現地に来て対応してくださったり、土木工事の相談をしても知識豊富で話が早く、こちらが求める2倍、3倍の情報で返答していただけたりと、相談がしやすい環境でプロジェクトを進めることができました。
―柏原精度検証センターの概要と位置づけについて教えてください。
我々のドップラー・ライダーは、研究開発段階から、いよいよ世の中へ展開していくフェーズに入りました。安心して世の中に展開するためには、ドップラー・ライダーがしっかり作動しているかどうかを精度検証センターで確認する必要があります。
欧州では、前述の「IEC61400-12-1(風力発電風車の評価方法)」の中で、風況観測システムの性能保証方法が定義されており、お客様はその規格を満たしていることを確かめた上で購入します。今回、精度検証センターの開設で実際にドップラー・ライダーの検証を行えるようになり、お客様に「IECのスタンダードに則っています」と胸を張って言えるようになりました。製品メーカーとして進む中で、この精度検証センターは製品の品質を担保する重要な位置づけになっています。
そして今回、我々が目指したのは、グローバルスタンダードよりも高い精度で検証していくことです。IEC61400-12-1規格に準拠したカップ式風速計の設置はもちろんのこと、我々は、さらにその基準を突破するような風向・風速の情報をより詳細に得られるよう、超音波風向・風速計を、鉄塔の3か所に4組・4式ずつ、合計24個取り付けました。これにより、世界最大級であり、高い精度を誇る検証センターを実現しました。
―風況観測は、今後どのような場面で活用されていくのでしょうか。今後の市場環境や展望について教えてください。
今後の市場環境としては、空飛ぶ車やドローンが発展していくにあたり、必要とされる気象情報は陸に加えて空へもシフトしていくと考えています。安心かつ安定的な飛行のためには、風の情報が重要となります。より密で、細かいスケールで風況観測を行った詳細なデータは、空のインフラを構築するために、今後価値が高まり、ニーズとしても高まっていくと考えています。
例えば洋上風力発電は中国や欧州諸国では発展していますが、今後、日本でも成長していくでしょう。そこでもドップラー・ライダーのニーズがあります。まずは候補地に一定期間、機器を設置し、事前調査を行うこともありますし、風力発電機が設置された後の風の効率を測ることも行っています。
風力発電施設は25年、50年という長期間の運用を前提としたインフラ工事となるため、1m/secでもデータが間違っていたら、大きな損失になりかねません。風況観測の精度が非常に重要なのです。今後、我々の製品を提供する前にしっかりと検証を行い、自信をもって高い精度を保証することで、社会に貢献できると考えています。
メトロウェザーは、2025年2月に古河電気工業株式会社と資本業務提携し、ドップラー・ライダーの国産化や量産化実現に向けて協業することとなりました。量産化が実現すると、今回開設した精度検証センターだけでは足りなくなるため、施設を拡張していくことになるでしょう。
メトロウェザーとJTOWERがお互いに持つ資産を活用し、社会に貢献できる良いものを、今後も一緒に作っていきたいですね。