インフラシェアリングを知る column

2023.08.16

【第1回】日本におけるインフラシェアリングの始まりと発展~インフラシェアリングは古くて新しい

WEB記事や新聞などのメディアで、“インフラシェアリング”という言葉をよく見かけるようになりました。直近では、政府のデジタル田園都市国家インフラ整備計画においても、5G整備をより効率的に推進するキーワードとして取り上げれられており、情報通信分野のトピックスの一つとして注目されている方も多いと思います。
インフラシェアリングとは、簡単に言うと、携帯電話のネットワーク設備の一部を複数の携帯電話事業者間で共用する形態のことを意味します。設備投資や運用・保守にかかるコストの削減につながり、より効率的なネットワーク整備ができるようになります。
このコラムでは、最近話題のインフラシェアリングをいくつかのテーマにわけて見ていきたいと思います。
初回は、日本でインフラシェアリングがどのように発展してきたのかを紹介します。

インフラシェアリングの概念が成熟する前「ステージ1」

従来、日本の携帯電話市場は、携帯電話事業者がそれぞれ自ら設置場所を調達し鉄塔を建てる自前主義の方針で基地局を設置してきました。これは、携帯電話事業者が各々で携帯電話ネットワークを構築することで、自らのサービスの優位性を確立することを目指していたからです。

このことを「設備競争」と言い、携帯電話事業者がお互い切磋琢磨することによって利用者が享受するサービスの品質を高めることにつながります。携帯電話市場の発展期には、必要な段階だったと思います。

ただ、このような時期においても、携帯電話事業者が設備を共用する事例はいくつかありました。例えば、以下のような形態です。

公益社団法人移動通信基盤整備協会による整備

公益社団法人移動通信基盤整備協会(JMCIA)は、1994年に設立され、当時の名称は「社団法人道路トンネル情報通信基盤整備協会」でした。この協会は、主に携帯電話事業者が母体となって運営されています。設立当初の‟トンネル”の命名が表すとおり、設置スペースの制限や工事のしにくさの問題で個々での整備が困難な鉄道や道路トンネル、地下鉄等の閉鎖空間に、協会が携帯電話事業者共通の通信設備を設置することによって、整備を行ってきました。地下鉄の構内などでは、協会が設置したアンテナを見ることができます。

都営大江戸線 青山一丁目駅の構内に設置されているJMCIAのアンテナ(当社撮影)

鉄塔等の貸し借りに関するルール化

日本では、2001年頃から第三世代(3G)の携帯電話サービスが開始され、携帯電話の本格的な普及期に入りました。そこで2001年、政府は、電力会社や携帯電話事業者など電気通信事業者をはじめとする公益事業を提供する事業者が、保有する鉄塔、管路、とう道(※)といった設備をより使いやすい料金で借りることができるよう、「公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン」を策定し、既存設備の有効利用が行える環境の整備を行いました。この取組みによって、鉄塔等を競合である他の携帯電話事業者から賃借するということが新たな基地局設置の選択肢となりました。

これらのケースについては、いずれも携帯電話事業者間で必要な場合にお互い助け合う、言わば相互扶助の意味合いが強いものであり、インフラシェアリングの概念が成熟する前の「ステージ1」として位置付けたいと思います。

※ケーブル収容空間と保守作業空間の確保を目的として構築された大規模地中構造物

インフラシェアリング事業者の登場によって「ステージ2」へ

JTOWERは、2012年に、携帯電話ネットワークのインフラシェアリングの提供を目途にして設立されました。JTOWERは、携帯電話事業者から独立したサードパーティの会社であり、日本で初めてのインフラシェアリング事業体であったと理解しています。

その後の10年間で、携帯電話事業者間の競争環境は、設備競争から協調領域の拡大へと変化してきました。この変化に伴って、様々な事業形態で複数のシェアリング事業者が参入し始めました。これは、相互扶助的な要素が色濃かったステージ1とは大きく異なった局面であり、インフラシェアリングもステージ2へ突入したと言えるでしょう。

このステージ2は、様々なシェアリング事業者がそれぞれの得意分野を活かして、多様なシェアリング形態を生み出していく可能性が高く、シェアリングエコノミーとしての新たな市場が生まれたことを意味しています。

例えば、基地局を設置するための工作物のシェア、アンテナのシェア、または無線機のシェアなどです。その結果、ステージ1では携帯電話事業者にとって限定的であったシェアリングの利用シーンが、基地局設置時の恒常的な選択肢として広がることが期待され、携帯電話事業者の設備投資の効率化をより一層進める効果が見込まれます。

このように、今後、シェアリング事業者は、携帯電話事業者のパートナーとして、また、社会インフラである携帯電話のネットワークを支えるプレーヤーの一人として、存在価値が高まっていくのではないかと考えています。

日本発のインフラシェアリングを海外展開「ステージ3」に向けて

2030年に向け、第5世代(5G)から第6世代(6G)へと技術が発展していくことを踏まえると、日本としてより迅速に、より効率よく、ネットワーク整備を進めることが必要になります。さらにその際、消費電力の削減、環境負荷の低減といった点にも配慮し実現していくことが社会的な要請として欠かせません。インフラシェアリングは、それらを実現する有効なネットワーク整備の手法として引き続き重要な役割を果たしていきます。

インフラシェアリングは、日本では諸外国と比較しても遅れた分野になりますが、5G、6Gのネットワーク整備に向けては、日本発の実現モデルとして海外へ横展開できるよう、官民連携の上、検討を進めていくことが求められています。

※記事中の内容は公開時点のものとなります。

SHARE