インフラシェアリングを知る column

2023.08.16

【第4回】インフラシェアリングの種類(後編)~高まるシェアリング事業者の役割

インフラシェアリングの種類について前編・後編で紹介しています。この後編では、無線通信の伝送や制御部分に関わる「中継装置シェアリング」から「無線ネットワークシェアリング」までの、アクティブインフラの共用について解説していきます。

技術的な難易度が高まるアクティブインフラシェアリング

前編ではシェアリング事業者が提供する共用設備の範囲に着目し、5つの分類を提示し、無線通信の伝送や制御部分にかかわらないシェアリング領域として、(1)サイトシェアリング、(2)アンテナシェアリングを紹介しました。

インフラシェアリングの種類
CU(Central Unit):無線信号の集約、データ処理を行う機能部
DU(Distributed Unit):無線信号の処理、RUの集約を機能部
RU(Radio Unit):電波の送受信を制御する機能部

後編では、(3)中継装置シェアリング から(5)無線ネットワークシェアリング を紹介します。これらの形態の共用設備は、携帯電話のネットワークとして問題なく通信が行える品質の確保が必要になるため、サイトシェアリング、アンテナシェアリングと比較して技術的な難易度が高まります。

(3)中継装置シェアリング

この形態は主に、オフィスビルや商業施設といった大規模な建物内の携帯電話の環境整備が利用シーンとなります。このような大規模な建物の場合、屋外の基地局だけでは電波が建物の中へ十分に浸透せず、携帯電話の利用環境が悪くなります。そのため各携帯電話事業者は、電波を光ファイバに乗せて建物内の各所に中継する設備「中継装置」を介し、複数のアンテナを各フロアに分散して設置する対策を行いますが、これにはかなりの設備投資がかかります。そこで、中継装置からアンテナ部分の設備を複数の携帯電話事業者で共用化することで効率的な電波環境整備を実現するのが「中継装置シェアリング」です。

なお、シェアリング事業者が提供主体となることで、携帯電話事業者は建物側との設置のための調整は行う必要がなくなり、無線設備のみを設置するだけでよい、というメリットもあります。

JTOWERの事業では、屋内インフラシェアリング・ソリューション(IBS:In-Building-Solution)が、この形態にあたります。

JTOWERの屋内インフラシェアリング・ソリューションのイメージ

(4)無線機シェアリング(RU)

無線機は、携帯電話事業者のネットワークにおいて通信エリアや品質を左右する重要な通信機器です。中継装置シェアリングまでは、基地局を構成する主要素である無線機を個々の携帯電話事業者が設置しますが、無線機シェアリングでは各携帯電話事業者が割当てをされたそれぞれの周波数帯を1つの無線機(RU:Radio Unit)で扱えるよう共用化するものです。

今後、第5世代(5G)、更に第6世代(6G)と携帯電話の技術が高度化するにつれ、対応する周波数帯域が増えていくことから、より一層効率的なネットワーク構築が求められることになります。日本では今まで、この形態はあまり見られませんでしたが、シェアリング事業者として取組むべき領域と考えています。
実現に向けては、携帯電話事業者のネットワークに共用無線機を接続し、通信が問題なく行われるか、技術的な検証を十分に行なわなければならず、難易度は更に高まります。
JTOWERでは現在(2023年8月1日時点)開発中の5Gミリ波共用無線機の取組みが、この形態にあたります。

JTOWERで開発しているミリ波対応の共用無線機イメージ

(5)無線ネットワークシェアリング(CU・DU)

この形態では、(4)無線機シェアリングに加えてさらに上位の無線ネットワークであるCU(Central Unit)・DU(Distributed Unit)を共用化するものです。近年、無線ネットワークを制御、管理するためのソフトウェアを、標準的なサーバー機器を使って実装する「仮想化ネットワーク」の流れが顕著になっています。機器等コストの削減に加え、ソフトウェアの柔軟化が図れるといったメリットがあります。

この仮想化ネットワークの流れの中、無線ネットワーク全体を共用化することで、さらに効率的な無線ネットワークの整備が実現可能になると考えています。

なお、この形態の発展形として、共通の周波数を携帯電話事業者で共用する形態もありますが、日本では、無線局免許の取得を誰が行うのかなど、共用周波数帯の概念が未整理のため、今後の検討に期待するところです。

携帯電話事業者間のローミングはインフラシェアリングか?

シェアリングの意味合いでは、携帯電話事業者間のローミングも該当するのではないか、といった疑問が出てくるかもしれません。最近では、KDDIのネットワークを楽天モバイルのユーザも利用可能となったり、また大規模障害や災害時の対策としても注目されている手法です。

筆者は、ローミングとインフラシェアリングは一線を画すものとして理解しています。

これは、ローミングの実施意義が、新規参入事業者の市場競争におけるテンポラリーな競争補完、また非常時の利用者保護の観点が主であることから、インフラシェアリングが有する「経済効率性等を追求する」といった趣旨とは異なっているからです。

シェアリング事業者には高い技術力が求められる

ここまで、前編・後編にわたって、インフラシェアリングの種類を見てきました。
5G、そしてこれからの6Gに向かっていく中で、通信量はさらに14倍まで増加すると推測されています。その通信量を処理にするためには、より高い周波数帯域を含むより多くの基地局をより速やかに、効率よく設置していくことが必要になります。

携帯電話のトラフィック予測(年間延べ)
総務省資料をもとに当社作成

ここで挙げたそれぞれのインフラシェアリング形態については、それぞれの利用シーンとメリットがあり、今後も有益なものと考えています。中でも、(4)無線機シェアリング、(5)無線ネットワークシェアリングのように、無線ネットワーク部分にまでシェアリングの領域を広げていく形態については、各携帯電話事業者が個別に基地局の展開を進める前に、シェアリングの形態として実装可能な状態にすることが最も効率が高いと考えています。

その際、携帯電話事業者が提供する通信品質を損なうことがないよう、装置を開発し、サービスを提供できる高い技術力がシェアリング事業者に求められます。

初回から4回にわたり、インフラシェアリング入門編の意味合いを込めて書き進めてきました。日本においては、インフラシェアリング市場を拡大させていくことが社会的な要請とも認識していますし、そのための下地はできつつあると感じています。

こうした中、シェアリング事業者がそれぞれの得意分野を活かし、新たな価値を創造していくことが、この市場をけん引する原動力になると考えています。

※記事中の内容は公開時点のものとなります。

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